【インタビュー】ひびのこづえさん(コスチューム・アーティスト)
2023.06.10
Eテレ「にほんごであそぼ」のセットや衣装、演劇や数々のテレビCMの衣装のデザイナーとして大人気のひびのこづえさんにお話をお伺いします。
―ダンスパフォーマンスの衣装をデザインされる際、ダンスによる衣装の動きを計算されていますか。
(ひびの)計算まではしないけど、「衣装がどういう風に動くかな、大体こんな風に動けるな」という想像はします。素敵なダンサーは、その服を自分の体の一部に使いこなします。そうすると、私が想像してなかった服の動きを見せてくれるのです。それが面白いから、服を作る原動力につながります。
―「このダンサーに着せたい」ということが先にあるのですか。
(ひびの)今回サラマンカホールで行う≪Piece to Peace≫は、島地保武さんと酒井はなさんに踊ってもらいたくて作りました。私のほとんどの仕事は、私が人を選べないので、このプロジェクトに関してだけです。お二人は日本でもトップクラスのダンサーであり、ご夫婦なので、この二人だから踊れるもの、二人だから服が繋がっている、その危うさを表現したくて、あの衣装が生まれました(写真:下、酒井はなさん、島地保武さん)。
―お二人で一つの衣装を着て踊られていますが、踊っているうちにどんどん裂けていくような…
(ひびの)裂けないのです。布が劣化し裂けた時もありますけど、基本的にはギリギリ裂けない。でもそれぐらいに危うく見えてもいいなあとは思っています。
―すごくドキドキしますね。
(ひびの)そうです。ドキドキするんです。去年、東京での上演では裂けましたね。その時は、踊る状況がベストでなく、やっぱりその時の気持ちが服にも踊りにも現れますね。全てがうまくいくときは裂けないのです。
―ダンサーのその時の心や動きが衣装に表現される…
(ひびの)そうですね、出ますね。一目瞭然です。人を生で見る、人が生で踊る、やっぱりその時の体調やその時のタイミングとか、そういうのが全て出るんですよね。だから見る側の意識も集中しないと、見ている人たちも踊っているつもりで見ないと、ダンスに現れると、いつも思います。
―ダンサーの全身タイツの柄、筋が血管、ひとつずつの網目が細胞のように見えました(写真:タイツの脚の部分)。
(ひびの)血管が織られていますね。あれはコンピュータで下書きの絵を作ると、そのまんま全部、指まで織られて出てくるすごい技術があります。私は最初に≪LIVE BONE≫という作品を作った時に、身体の表面に血管が見えるようにと思い、レースでタイツを作りました。
―あのタイツは生命が表現された、ひびのさんのダンスパフォーマンスの根本であるのかなと。
(ひびの)基本的には私は衣装を作っていますが、人の体を見せたいのです。過剰なものを作りますけど、過剰なものは早く脱がせたい。一番見せたいものは彼らの鍛えられた美しい身体が踊っているか、全ての筋肉を見せたいですね。
―同時に開催されるワークショップでは、ひびのさんが衣装を制作された際に余った布を使用しますが、それに触れられるだけでとてもワクワクします。
(ひびの)いや、普通に売ってた布です。
―その売っていたものが、ひびのさんがセレクトし衣装に使用されたということで価値が生まれる。
(ひびの)そんなに重く考えずに。ワークショップでブローチを作るのは、観客も製作者になり、作ることの面白さ大変さも同時に知ってもらいたい。私のワークショップは、自分でデザインし自分で描いたものを実際に作ります。全部を自分でやらなきゃいけないのです。誰からこうしなさいと言われない、でも自分で考えなきゃいけない。その中に、機能をもたなければいけなかったり…そういうことを加味したうえで表現するっていうことを、みんなにも実感してもらいたい。それがクリエーターの姿勢だからです。
―子どもも大人も。
(ひびの)実は大人の方ができないです。みんな教えてもらえると思っている。でも、ここでは、自分で探さなければいけない。その結果、みんな違った作品ができてくるし、大人も「あ、自分がここまでできるんだ」っていう実感を得るし、子どもも自分のやったことを誇らしく感じる。親子で参加すると、子どもが親をリスペクトします。「あ、自分よりもお母さんはこんなこともできるんだ」っていう。普段の生活では当たり前になっていて見えないけど、自分と同じ作業をしたときに「お母さんはちゃんとできちゃう」、そういうところを、見せたいなって思います。終わるたびに子どもが親を尊敬している目になりますよ。(終わり)
「ライオン」のデザイン画と衣装で踊る島地保武さん
「人魚」のデザイン画と衣装で踊る酒井はなさん
【公演情報】2023年8月26日(土)
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